フリーランサーの働き方の魅力は何といっても、自身の能力やスキルを活かしながら、自由を追求していける点にあるのではないでしょうか。しかし一方で、フリーランスの働き方が抱えるデメリットとして「労災事故が起きた時に、所得や医療費の補償が受けられない点」が挙げられます。ところが、そんなデメリットを緩和できる「労働者災害補償保険(以下、労災保険)」が、2024年11月〜全てのフリーランサーに適用されるようになりました。
なお、「フリーランス労災保険」という名前は、厚労省から与えられた正式名称ではありません。正確には「全てのフリーランサーが労災保険に”特別加入”できるようになった新制度」という長い表現になるため、以下、語弊がないよう「特別加入」と表現させて頂きます。これを読めば、以下が分かるようになります(所要時間:約15分)。
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結論、怪我や病気が発生しやすい長時間労働や危険作業を伴うフリーランサー達の場合、労災保険の特別加入を検討する価値はあると言えます。フリーランサー達は怪我や病気によって働けなくなった瞬間、収入が途切れてしまい医療費の自己負担分が発生してしまう点が、大きなデメリットだと言えるからです。また、会社員の場合、怪我等が治ればまた職場復帰ができますが、フリーランサーの場合は、休業前と同じペースで仕事が受注できるようになるとは限りません。そのような「ビジネス継続性」の観点からも、会社員以上に、労災事故による経済的ダメージが大きいのが、全フリーサンサー共通の悩みだと言えるのではないでしょうか。そんな中、たとえ業務上の怪我等によるリスクだけでも手厚く保護してくれる労災保険は、不安定な働き方をするフリーランサーにとって大きな味方になってくれるはずです。
労災保険とは、国が運営する公的保険のことであり、業務上の作業や労働環境などが原因で怪我や病気になってしまった際、働けなくなった期間の所得保障や医療費補助などが受けられる制度のことを言います。
しかし、労災保険の制度を利用できるのは、労災保険に加入している会社の会社員、いわゆるサラリーマン達だけに限定されています。会社勤めではないフリーランサー達は、原則、労災保険の保護は受けられません。
ところが、どんどん多様化していくフリーランサー達の働き方を保護すべく、2024年11月〜、業種問わず全てのフリーランサーが労災保険に特別加入できることを国が決定しました。なお、ここで言う「特別加入」とは、本来、サラリーマンにしか適用されなかった労災保険を、一定の条件を満たした非サラリーマンでも加入ができる仕組みのことを指しています。
労災保険でカバーされる怪我や病気については、骨折、火傷、心の不調など、基本的にはどんな種類の傷病でも保護してくれます。ただし、従事しているフリーランス業務に直接起因して発生した傷病でなければならず、最終的には労働基準監督署を窓口とした国の特別な機関が、最終的な労災保険の適用可否をジャッジします。なお、保険サービスの種類については非常に多岐に渡るため、詳しくは、厚生労働省のサイトをご確認ください。
各特定フリーランス事業の特別加入団体に問い合わせをして、そこで加入の手続きをサポートしてもらう、これが結論です。特別加入は自分1人では申請できず、必ず自身の業種を管轄している特別加入団体を通さなければならないのがルールとなっているからです。
なお、特別加入団体とは、特別加入を希望するフリーランサーなどに対する事務手続きサポートを行う団体のことを指します。業種・業態ごとに細分化された組織が日本全国に存在している場合があるので、ご自身の職場が所在するエリアを管轄する特別加入団体にお問い合わせ頂くのが、一般的な加入フローとなっています。
実は「一人親方」と「特定作業従事者」と呼ばれる一部業種のフリーランサー達は、以前からこの「特別加入」が認められていました。しかし、個人貨物運送業者(ウーバー配達員など)、芸能関係作業従事者(俳優やスタントマンなど)、特定農作業従事者(危険な農機具を扱う農家など)といった、特に怪我が多い仕事や、特定の会社に縛られない業種のみに限定されていました。言い換えると、その他のニッチな働き方のフリーランサーについては、今までは特別加入をさせてもらえない状態だったのです。
そのような事情から、2024年10月以前までは、フリーランサー達が特別加入をするためには、さらにひと手間かかるのが一般的でした。具体的には、「労災保険への特別加入」という厚生労働省のHPなどを用いて自身の業種を検索しつつ、もし特別加入ができる業種だった場合は、その業種を管轄する特別加入団体に対してサポート依頼を行う、といった「適用業種を確認するアクション」をせねばなりませんでした。つまり、リサーチの手間と特別加入の知識の両方が必要だったのです。
※特定フリーランス事業の特別加入団体について
ところが、2024年11月〜、業種問わず全てのフリーランサーに「特別加入」が認められるようになりました。なお、「一人親方」と「特定作業従事者」の2種類と区別して呼べるよう、新たに特別加入が認められた残りのフリーランス業を、ここからは「特定フリーランス事業」と呼ぶことにします。
特定フリーランス事業の特別加入の窓口については、「フリーランス労災保険組合」や「連合フリーランス労災保険センター」などのいくつかの特別加入団体が、サポート相談の受付を開始したことで知られています。ただし、手数料や会員特典などは各団体によって様々ですので、いくつか比較しながら自身に合った団体を選んで相談してみることをオススメします。
下記①〜⑤が計算フローです。なお、特定フリーランス事業であれば、たとえどんな職種であっても、保険料率は一律3/1,000となっています。保険料はそれほど高くないにも関わらず、万が一の労災事故の際には手厚くサポートしてくれるため、一般的にはリスクとリターンのバランスが良いのが特徴だと言われています。
①自身の見込み年収 ÷365日=1日あたりの平均見込み日額を算出する。1年間を通して繁閑が激しい業種でも問題ありません。
②3,500円〜25,000円までの16段階の「給付基礎日額」の表の中から、ご自身の平均見込み日額に最も近いものを1つ選ぶ。
③選んだ「給付基礎日額」x365日した金額に、3/1,000(一律)の保険料率を掛けて、1年分の労災保険料を算出する。つまり、自身の見込み年収が高い場合は保険料も高いが保障も手厚い、となる。
④特別加入時に1年分の労災保険料を年払いする。日ごとや月毎の支払いはできない。
⑤仮に途中で特別加入からの脱退をした場合は、前払いしていた残りの保険料を返してもらえる。
2024年11月〜、特定フリーランス事業の中でも特に怪我や疾病のリスクが高そうなものを、いくつかピックアップしてみました。これら業種は労働人口もそれなりに多いため、今度、特別加入制度がこれらの業種の廃業者の減少や職業の安定などに、一定の役割を果たすことが期待されています。
労災保険には、不幸に見舞われた際の所得保障、ビジネスの継続性、お客様との信頼と安心の向上など、さまざまなメリットがあります。自らの心身とビジネスの両方を安定させたいのであれば、労災保険への特別加入は非常に検討価値のあるサービスだと言えます。フリーランサーとしての成功を語る上で、リスクとの付き合い方はとても大事です。ご自身の業種・働き方に対するリスク許容度に応じた、特別加入の検討を進めていくことをオススメします。
なお、一人親方労災保険の保険料は社会保険料控除の対象となります。確定申告時にしっかりと記入して、節税に役立てましょう。また、入会金と組合費は日々の仕訳で経費計上することができます。FinFinから加入した場合には入会金がかかりませんが、組合費についてはFinFinで経費(勘定科目は「諸会費」などが妥当)として登録してみてくださいね。
2012年4月奈良市役所(生活保護課)においてケースワーカーとして5年従事。
2018年10月社会保険労務士試験に合格。2017年からコンサルティング会社(2社)において、国際労務の情報発信や中小企業に対する人事労務相談などを担当。
2022年9月に株式会社タイミー(スポットワーク研究所)に入社。短期バイト関連の法的アドバイス、マイナンバーを活用した雇用DXの提案、海外の労働市場の調査研究、などを幅広く担当。