いよいよ本格始動した青色申告チャレンジ、今回が初めての取材となります。会計バンクに訪れた佐藤ナツキさんも宮﨑先生も気合十分で、「よろしくお願いします!」という元気のよい挨拶から取材はスタートしました。
目次
まずは、今回の企画の主役である佐藤ナツキさんの経歴をかんたんにご紹介します。
ナツキさんは新卒の頃から美容部員として働き、結婚して二人のお子さんに恵まれた後も社員として勤めていました。しかし、小学三年生の上のお子さんが夏休み明け、学校に行きたがらなくなったのをきっかけに、忙しくて家族と向き合う時間が取れない自分に気づいたそうです。
「子供に「もっと家族と一緒にいたい」と言われた時、胸に刺さりました。私だってそうだよ!と心の底から思ったんです。仕事は忙しくて自由に休めないですし、家族との時間を大切にするためにも、会社を辞めて別の働き方をしようと決心しました」
ナツキさんは以前より、『子育てが一段落したら片付けアドバイザーとして活動したい!』という夢を抱いていたそうです。会社を辞めるのであれば、その夢は前倒しで実現していきたい、そうナツキさんは考えました。その想いを加速させたのは、「片付ける」の一歩先にある大切さに気付かされた、とある経験でした。
「子供部屋やパパの部屋はあっても、ママの部屋がない家は多いですよね。私のところもそうで、家の中を見回した時、自分の居場所がないと感じました。それで、試行錯誤してダイニングの傍に、小さいながらも自分のためのスペースを作ったんです。壁も黄色に塗りたいと家族に言って猛反対されたんですけど(笑)、話し合ううちに「こうしたらいいね」という案が生まれて、家族関係も変わってきたんです」
それまでは夫に自分の意見が言えないことが多かった、と語るナツキさんは、自分の居場所を家の中に作ったことで、自分も家族も良い方向に変わっていった実感を得ました。家を心地よい空間に作り替えることで毎日が良くなる、この経験を色んな方に広めていきたいと思ったそうです。
川崎地域の子育てサポートや事業主のサポートを行っているNPO法人はたらくらすを通じて、ナツキさんは少しずつお客様を増やしていきました「自分が好きなものに溢れた居心地よい空間」=「きゅん部屋」を作るためのアドバイスをするというコンセプトは、数多くの方の心をつかんだのです。新規のお客様の大半は口コミで、綺麗になった友人の家を見て、「私も相談したい」と来られる方が多いそうです。
今年の春に開業3年目を迎えたナツキさんは、順調に売上も上がってきているので、事業拡大を見据えて補助金を受けたいと考えて、相談のため商工会議所を訪れました。ところが、そこで予想もしなかった「壁」にぶつかってしまいます。
「担当の方は青色決算書を見るなり、『これは本当に合っているの?』と疑うように尋ねてきたんです。指摘された箇所について、私は全然説明できませんでした。青色申告も三年目を迎えて、会計をちゃんとやってきたつもりだったのに、何もわかっていないことに気づいて大ショックを受けたんです」
商工会議所の方は、初対面の方の決算書を厳しい目でチェックします。決算書は、その方の返済能力を確認するための書類でもありますから、間違いのある決算書をそのまま受け入れるわけにはいかないからです。
引用:「確定申告直前!税理士が教える確定申告のキホンの「キ」~フリーランスのための大相談会~」
もちろんナツキさんは宮﨑先生のアドバイスの元、しっかりと会計を行っていたのですが、決算書の説明をしなくてはいけないという意識がなかったため、事前準備が不十分で上手く質問に答えられませんでした。
ちなみに商工会議所の方に受けた質問の一つは、「どうして所得金額がマイナスなのか?」です。宮﨑先生によれば、節税のために経費を大幅に計上して、わざと毎年赤字にするという経営は問題視されるため、所得金額の欄がマイナスである理由の説明を求められることは珍しくないそうです。
「ただし、ナツキさんの決算書を見ると、初年度が赤字でも次年度は利益が出ています。開業費用などで初年度が赤字になることは珍しくありませんから、初年度は投資のために赤字でした、と説明すれば問題はなかったはずです」
青色申告を行っていれば、赤字を三年間繰り越すことができて、給料等の個人事業主以外の収入があるときは損益通算が可能です。初年度の赤字を繰り越して、黒字化した時の節税につなげられるので、宮﨑先生は開業初年度からの青色申告を勧めているそうです。
他には、どうして決算書の項目に現金がないのですか?とも聞かれたそうです。宮﨑先生によると、次のようなケースは現金の項目は必要ないと判断できるそうです。
現金の項目が必要ないケース
・店舗のレジ等で現金を管理しているわけではない
・小口現金を持っていない
・代表者以外に経理担当者がいない
ナツキさんのようにアドバイザーやコンサルタントをしている方は、上記の条件に当てはまります。この場合は、「現金」ではなく「事業主借」を使って会計を処理することができます。
「事業主借」とは、プライベートのお金で事業の必要経費を支払った使う科目です。たとえば事業に使う文房具を現金で買った場合、
借方 | 貸方 |
---|---|
消耗品費 4,000円 | 事業主借勘定 4,000円 |
という仕訳を立てるというルールであれば、現金の科目を使う必要はありません。「現金は全てプライベートのもので、事業の資金は銀行口座で管理しています」という説明で通じるのです。
また、このような仕訳に「現金」を使っていると、個人の現金と事業用の現金が混ざってしまい、現金の勘定がマイナスに陥る可能性があります。
現金がマイナスになることはありえませんから、このような決算書は「怪しい」と思われてしまいます。万が一現金がマイナスになっていたら、現金関係の過去の仕訳をチェックしてみましょう。
では、お客様から現金で代金をもらった場合の仕訳はどうするのでしょうか。ナツキさんは「代金をもらったらすぐに銀行口座に入金している」そうで、その場合は
借方 | 貸方 |
---|---|
預金 10,000円 | 売上 10,000円 |
と「銀行口座に代金を振り込んでもらった場合」と同じ処理をしても、実務上は構いません。
「ただし、現金でもらった代金をすぐに口座入金せず、月一回程度まとめて入金している場合は注意が必要です。特に、12月にもらった代金を手元に持ったままで1月を迎えてしまうと期をまたぐことになりますから、そのための処理が必要ですね」
そのように期をまたいでしまう場合は、次のような仕訳が必要です。たとえば30,000円の代金が手元にあり、まだ口座入金をしていない場合は、その分を売掛金、つまり「まだ回収されていない売上分」として仕訳をすることができます。
借方 | 貸方 |
---|---|
売掛金 30,000円 | 売上高 30,000円 |
もちろん簿記のルール通り、手元の代金を現金として見る仕訳も可能です。その場合は、このような書き方になります。
借方 | 貸方 |
---|---|
現金 30,000円 | 売上高 30,000円 |
この場合はそれぞれ翌期に、以下のような仕訳を追加することになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
預金 30,000円 | 売掛金 30,000円 |
または
借方 | 貸方 |
---|---|
預金 30,000円 | 現金 30,000円 |
そんな宮﨑先生の解説に、「知りませんでした!」と驚くナツキさん。売上や利益は気にしていても、細かいお金の流れまで気にしている方はさほど多くないのではないでしょうか。こんな細かい点も、個人事業主にとっては大切なポイントの一つです。
経理や会計に詳しくない方が事業を始める場合、確定申告を終わらせることに精一杯で、申告書の中身まで気にしていられない、というケースが多いかもしれません。
しかし、ナツキさんのように事業が軌道に乗り始めて、さらなる拡大を見据えて補助金や融資を受ける際には、必ず青色申告決算書の提出が求められます。他にも住宅ローンを組む際には提出を求められることが多いでしょう。
そして中身に不明な点があったり、それについて説明できなかったりすると、「信用できない決算書」と判断されてしまいます。事業を続けていく上で、青色申告決算書の中身を理解し、その完成度を上げていくことは非常に大切です。
青色申告の65万円控除には、損益計算書と貸借対照表も必要ですから、その二つの理解も合わせて行っていきましょう。
個人事業主の確定申告は、会計アプリを使ってスマホで済ませるのがおすすめです。
スマホで撮影するだけでレシートや領収書が簡単に取り込め、仕訳も該当する項目を選ぶだけで完了します。税務署へ行かなくても、自宅にいながらスマホだけで確定申告ができます。確定申告をしたいと考えている個人事業主の方は「FinFin」を試してみてください。
スタートを切った「青色申告チャレンジ」、第1回はナツキさんが起業するまでの経緯と、青色申告決算書の重要さに気付いたエピソードをご紹介いたしました。
次回はレシートの日々の整頓方法、会計をスムーズに終わらせるためのコツを解説する予定です。宮﨑先生とナツキさんの二人三脚で続く今回の企画、今後もご期待ください!
・佐藤ナツキさんのHP「ナチュピース~きゅんから始まるお部屋ストーリー」
・次回の申告から決算書が読めるようになる!?★きゅん部屋コンサルタント佐藤ナツキさんの「青色申告チャレンジ」スタート!
・NPO法人はたらくらす