前回の青色申告チャレンジでは、「夢を叶える手段」としての事業計画書の重要性についてご紹介しました。今回はさらに踏み込んで、フリーランスの方々がターゲットや単価などを見直す時にも事業計画書が役立つというお話を、ナツキさんの実際のエピソードを交えて解説していきます。
目次
ここで、事業計画書の延長として「創業計画書」についてご紹介します。こちらは日本政策金融公庫が融資の際の提出書類として用意しているものです。
日本政策金融公庫は、創業・スタートアップ支援の目的で無担保・無保証人の「新創業融資制度」を提供しています。創業時に融資を受ける際の有力な候補先で、フリーランスや個人事業主の方でも比較的融資が受けやすい傾向があります。
宮﨑先生は創業計画書を取り出して、「これを見ながら、ナツキさんの創業計画書に足りない部分を考えてみましょうか」という提案をしました。もちろん前回の記事で述べたように、事業計画書の形式は決まっていません。しかし創業計画書は融資の判断資料として使われる書類ですから、必要な要素がぎゅっと詰まっているのです。
融資のための書類とのことで、ナツキさんからこのような素朴な疑問が出ました。「事業のためにお金が必要でも、融資を受けるのは思い切りがいると感じます。借りたら返さないといけないので、プレッシャーですし。先生、私は融資を受けた方がいいんでしょうか?」
その質問に、宮﨑先生はこう答えました。「ナツキさんは相談を受けて悩みを解決するというお仕事で、店舗などの固定費もありません。そのため、すぐにまとまったお金が必要なければ、決して融資を受けた方が良いということはありませんよ」
前回の事業計画書と同様に、融資の必要がない方でも、事業の方向性を見極めるために「書いてみる」ことが役立つこともあるかと思います。それでは、ナツキさんのサービスを例に取って考えていきましょう。
たとえば、創業計画書左側の上部にある「サービスの概要」「セールスポイント」「ターゲット」という項目です。この三つを的確に書き出せば、それだけであなたの事業の強みを伝えられると考えてもよいでしょう。
第一回の青色申告チャレンジでお伝えしたように、ナツキさんのお仕事は「お片付けアドバイザー」です。しかし、「サービスの概要」にそう書いたとしたら、ナツキさんの事業内容が上手く伝わらない可能性があります。
「最初は、お片付け相談30分ワンコイン!というサービスを提供していました。ただ、そうすると家を片付ける便利屋さんと見られて、『私が出かけている間に片付けておいてね』と言われることもありました。私が目指しているのは、お客様と話し合いながらくつろげるお家、素敵な空間を作っていくことなので、それは違う、と次第に違和感を覚えました」
また、ナツキさんは「厳しいアドバイスが欲しい」というニーズもお客様とのやりとりの中で感じ取ることがあり、それも自分の提供できるサービスとは違うと感じたそうです。厳しいアドバイスというのは、たとえばちゃんと片付けなさい!と叱ってもらう方がやる気が出るとか、自分に代わって家族に注意してほしい、というニーズだそうです。
「もちろんそういうサービスを提供している方を間違っているとは思いません。ただ、それは私のやりたいことではなくて。私は『変わりたい!』と思う方のお手伝いをするのが、大好きなんです。ああしよう、こうしよう、とお客様と色々話して、変わったお家を見て、笑顔になってもらうと私も楽しくて、嬉しくなるんです」
ナツキさんの仕事は「単に家を片付ける」のではなく、お客様と一緒になって、部屋や家を楽しくて快適な空間に作り替えていくことです。これは決して誰にでもできる仕事ではなく、ナツキさんの人柄と経験、知識があってこその実績です。
ナツキさんが語ったことから、「サービスの概要」「セールスポイント」「ターゲット」をまとめると、次のようになります。
「サービスの概要」家や部屋を楽しく快適な空間にすることで、お客様の生活やライフスタイルを良い方向性に変えていくための様々なご提案をするサービス。
「セールスポイント」ただ部屋を片付けるのではなくて、お客様が生活していて「楽しい」と感じられる空間づくりを第一としています。お客様の好みや考え方、感じ方に寄り添ったご提案を行っていますので満足度が高く、お客様から別のお客様を紹介いただける流れができています。
「ターゲット」家や部屋を変えることで自分も変わりたい!と考えている方。自身が忙しい日々の中で家族との時間が取れないと悩んだことが創業の土台になっているので、同様に悩んでいる主婦の方に共感いただけるサービスを目指しています。
このように文章化すると、ナツキさんならではのサービスの特徴が見えてきますね。これらはフリーランスの方が自分のサービスをアピールする時に重要なポイントで、HPやSNSでサービスをPRする時にも役立ちそうです。
自分のサービスや事業の強みは何か、やりたいことは何か、逆にやりたくないことは何か、事業計画書作成の中で自然とそれらを考えたり、整理したりすることができます。
それでは、次に右側のページの下部に注目してみましょう。「創業当時」「1年後又は軌道に乗った後」の売上高などを記載する欄です。こちらについては、前回のナツキさんの事業計画書でも含まれていた要素です。
「この書類では、創業当時とその後を比較して何かが変わったのかという説明を書く必要があります。後で見返した際に内容を把握できるよう、文章でわかりやすく記述するとよいでしょう。また融資を受ける事により、どのように成長が見込めるかを記述すると説得力が増します」
事業の成長要素とは、大きく分けて顧客数が増えること、単価が上がることです。また、新しい事業を始めたために売上が上がったというケースもありえるでしょう。ここで、宮﨑先生から単価についてアドバイスが出ました。
「創業直後は安い単価で仕事を受けて、実績を積んで単価を上げていこう、といった具合に計画しているフリーランスの方もいらっしゃるのではないでしょうか。その場合、単価が上がった理由も書いておくと、より説得力が増します」
たとえば、ナツキさんは「片付け」について現在外部で学んでいて、そのノウハウを取り入れることで数年後はさらに質の良いサービスを提供できるとの考えから、単価アップを検討しているとのことです。
こういった具体的な情報も事業計画の一つですし、逆に事業計画を見ながら「数年後にこの単価を実現するためには、今からどのようなことを準備すれば良いか」と考えることも重要です。
今回はフリーランスの方に向けて、二回に分けて、事業計画書や創業計画書が何に役立つかを解説してまいりました。少し会計から外れた話題になりましたが、こちらも会計と同じく、自分の強みやこれからの計画を見直すために大変役立ちますので、ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に作成してみてはいかがでしょうか?
次回はいよいよ中間報告と題しまして、これまでの会計を簡単に振り返ってみます。また電子申告の準備についても解説いたします。次回の「青色申告チャレンジ」にもご期待ください!
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