「発生主義」とは、お金が移動した時ではなく、取引が成立した時に費用と収益が発生するという会計上の考え方です。
逆に、お金が移動した時に費用と収益が発生するという考え方を、「現金主義」と呼びます。
会計上の原則は、現金主義ではなく発生主義です。青色申告でも白色申告でも、基本的には発生主義にもとづいた帳簿を作る必要があります。
発生主義が選ばれる理由は、現金主義だと現在の収益が正しく認識できない可能性があるからです。現金主義で記帳していると、将来入ってくるお金の額、将来払うべきお金の額がわからないからです。
それでは、仕事に使うパソコン9万円をクレジットカードで購入したケースを想定し、発生主義、現金主義それぞれでどのような仕訳になるのかを見てみましょう。
発生主義の場合発生主義の場合、パソコンを購入した時の仕訳は以下のようになります。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
11月15日 | 消耗品費 90,000 | 未払金 90,000 | パソコン |
翌月に代金が銀行口座から引き落とされた時には、このように仕訳をします。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
12月31日 | 未払金 90,000 | 普通預金 90,000 | パソコン |
つまり発生主義では、取引が発生した時とお金が動いた時、二個の仕訳が発生します。
現金主義の場合現金主義だと、クレジットカードで購入した際には仕訳をせず、翌月に代金が引き落とされた時だけ以下のように仕訳を行います。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
12月31日 | 消耗品費 90,000 | 普通預金 90,000 | パソコン |
つまり、パソコンの購入という一つの取引に対して、発生主義は二個、現金主義は一個の仕訳が発生します。
前述の通り、発生主義では現金主義よりも仕訳の回数が多くなりますが、二度手間になるのは面倒、と考える方に朗報があります。
実は、会計期間(個人事業主の場合は1~12月)の間は現金主義で仕訳を行い、会計期間をまたぐ取引だけ発生主義で仕訳をする「期中現金主義・期末発生主義」というやり方があります。
期中とは会計期間内という意味です。青色申告、白色申告ともに、この帳簿付けの方法でも問題ありません。
先ほどのパソコン購入の例で考えてみましょう。
11月にパソコンをクレジットカードで購入し、12月に代金が引き落とされる場合は、両方とも期中の取引のため現金主義での帳簿付けができます。つまり、代金が引き落とされた時だけ仕訳を行えばよいのです。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
12月31日 | 消耗品費 90,000 | 普通預金 90,000 | パソコン |
しかし、12月にパソコンをクレジットカードで購入し、来年1月に代金が引き落とされる場合はどうでしょうか。
「12月にパソコンを購入した」という仕訳を行わないと、1~12月の実際の費用と会計上の費用が異なってしまいます。そのため、12月のパソコン購入については、発生主義に基づいた仕訳が必要になります。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
12月31日 | 消耗品費 90,000 | 未払金 90,000 | パソコン |
ややこしいかもしれませんが、実務上は期末に近い取引に注意して、12月31日までにお金の移動が発生しない取引のみ、発生主義での仕訳を行うことになります。
期中現金主義を使う場合、申告上は問題ないとしても、現金主義のデメリットである「現在の損益がわかりにくい」という点には注意しましょう。経営においては、リアルタイムで損益を正しく把握することが大切だからです。
どのように「わかりにくい」のか、具体例を見てみましょう。
お客様からの入金は納品の翌月末に入金され、仕事の一部を業務委託する外注費は外注の翌々月15日に支払うケースを想定します。
6月は税込110万円の仕事を納品し、その外注費は税込44万円とします。そして7月は税込220万円の仕事を納品し、外注費は税込88万円とします。6月分、7月分の取引について現金主義で仕訳を行うと、以下のように表記されます。
日付 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
7月31日 | 普通預金 1,100,000 | 売上高 1,100,000 |
8月15日 | 外注費 440,000 | 普通預金 440,000 |
8月31日 | 普通預金 2,200,000 | 売上高 2,200,000 |
9月15日 | 外注費 880,000 | 普通預金 880,000 |
現金主義ですから、仕事を納品した時や外注した時は仕訳を行わず、実際の入金や支払いが行われた時に仕訳がなされます。この仕訳が反映された損益決算書の8月部分を見てみると、売上高と外注費は以下のように記載されます。
8月損益計算書
当月借方 | 当月貸方 |
---|---|
売上高 2,200,000 | 外注費 440,000 |
売上高220万円は7月分の仕事の売上高であり、外注費44万円は6月分の仕事の外注分です。つまり、この二つは関係がない費用と利益ですが、損益決算書を短期間で見た場合、「売上高220万円の仕事によって発生する外注費は44万円」と誤認する可能性があります。
このように、現金主義は現金が動いた時期のみを記帳するため、収益を正しく認識できないことがあるのです。
では、発生主義だとどうなるのでしょうか。6月分、7月分のこの取引を発生主義で仕訳すると、以下のようになります。
日付 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|
6月30日 | 外注費 440,000 | ②買掛金 440,000 |
6月30日 | ①売掛金 1,100,000 | 売上高 1,100,000 |
7月31日 | 普通預金 1,100,000 | ①売掛金 1,100,000 |
7月31日 | 外注費 880,000 | ④買掛金 880,000 |
7月31日 | ③売掛金 2,200,000 | 売上高 2,200,000 |
8月15日 | ②買掛金 440,000 | 普通預金 440,000 |
8月31日 | 普通預金 2,200,000 | ③売掛金 2,200,000 |
9月15日 | ④買掛金 880,000 | 普通預金 880,000 |
現金主義だと4仕訳が、倍の8つになりました。発生主義では、取引が成立した時とお金が動いた時の両方で仕訳を作るからです。
この仕訳が反映された損益決算書の6月、7月部分を見てみると、売上高と外注費は以下のように記載されます。
6月損益計算書
当月借方 | 当月貸方 |
---|---|
売上高 1,100,000 | 外注費 440,000 |
7月損益計算書
当月借方 | 当月貸方 |
---|---|
売上高 2,200,000 | 外注費 880,000 |
売上高と外注費が対応した形で集計されています。このように、発生主義の方が仕訳が多くなる分、損益をより正しく把握できます。
繰り返しになりますが、期中現金主義は会計上認められたやり方であり、業務効率化の上では優れた点もあります。
取引が少なく、収益は把握できているので細かな仕訳は必要ない、あるいは取引が発生した日とお金が移動する日の間隔が短く、めったに時期がずれることもない場合は、作業量が少なくなるというメリットを加味して、期中現金主義で処理してもOKかと思います。
発生主義・現金主義の比較表
発生主義・現金主義の比較表 | 発生主義 | 現金主義 |
---|---|---|
作業量 | 多い | 少ない |
損益の見やすさ | 〇 | △ |
両方のメリット、デメリットを把握した上で、自分の事業に合ったやり方を選んでいきましょう。
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