フリーランスや個人事業主も、事業が拡大すれば人を雇う必要が出てきます。雇用を行うときには、契約内容を通知するだけでなく、公的な手続きが必要になることをご存じでしょうか。その手続きとは、どういったものなのでしょうか。雇用が発生した際に忘れてはならない手続きや、注意すべきことについてご説明します。
なお、ここでは家族や親族を専従者給与にするケースではなく、「外部の人」を雇う場合を解説しますのでご注意ください(家族を専従者給与にする場合の記事はこちら)。また、個人事業者が外部パートナーに業務を委託するケースにも当てはまりませんので、お気をつけください。
目次
フリーランスがパート・アルバイトを雇用する際には、被雇用者に対して「労働条件通知書」を発行する必要があります(労働基準法第15条による)。どういった条件の雇用になるか、雇う人から雇われる人に対して通知するものです。作成は義務であり、怠った場合には30万円以下の罰則となります。
書式は厚生労働省の主要様式ダウンロードコーナーからダウンロードすることができます。【一般労働者用】常用、有期雇用型、日雇型、【短時間労働者用】、【派遣労働者用】など、雇用形態によって異なる書式が用意されていますので、適切なものを選んでください。
【労働条件通知書の例】
・契約期間(期間の定めなし、期間の定めあり)
・就業の場所
・従事すべき業務の内容
・始業、終業の時刻、休憩時間、就業時転換
・休日及び勤務日
・休暇
・賃金
・退職に関する事項
・社会保険の加入状況など
・更新の有無
なお、同時期に必要になるものとして「雇用契約書」があります。これは、雇用者と非雇用者との間での契約を書面として残すものです。労働条件通知書とは異なり、法律上の作成義務や罰則規定はありません
「給与支払事務所等の開設届出書」とは、従業員を雇用する際、税務署に提出する必要のある書類です。提出期限は「従業員を雇用することになってから1カ月以内」となっています。様式は国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
国税庁ホームページ [手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_11.htm
[申請書様式・記載要領]のリンクからDLしてください。
項目は以下の通りです。
・事務所開設者(住所、名前・名称、個人番号・法人番号、代表者氏名)
・開設・移転・廃止年月日
・給与支払を開始する年月日
・届出の内容及び理由(開設/移転/廃止/その他)
・給与支払事務所等について(住所、名称、代表者氏名)
・従業員数
など
従業員へ支給する給与から徴収する源泉所得税の納期限は、原則として徴収した日の翌月10日となります。一方、この申請を提出すると、給与の支給人員が常時10人未満であれば、給与や退職手当、税理士等の報酬について源泉徴収をした所得税を、次のように年2回にまとめて納付できるという特例制度を受けることができます。
1月から6月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税…7月10日
7月から12月までに支払った所得から源泉徴収をした所得税及び復興特別所得税…翌年1月20日
[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/gensen/annai/1648_14.htm
雇用関係については、4つの手続きが必要です。すべては書面で届け出ますが、そのための用紙は労働局・労働基準監督署・公共職業安定所/ハローワークなどに電話で申請して郵送してもらうか、直接受け取りに行く必要があります(複写式の特殊様式のため、ダウンロードが不可であるケースが多いため)。まずは問い合わせてみてください。
引用:厚生労働省「労働保険の成立手続」
①「保険関係成立届」を公共職業安定所へ
……労働保険の適用対象となる労働者を雇った日の翌日から10日以内
②「概算保険申告書」を所轄の労働基準監督署・都道府県労働局、あるいは日本銀行(代理店などでも可)へ
……労働保険の適用対象となる労働者を雇った日の翌日から50日以内
※①と同時進行、あるいは①のあとに行う
③「雇用保険適用事業所設置届」を公共職業安定所へ
……雇用保険の適用対象となる労働者を雇った日の翌日から10日以内
※①が完了したのち、③・④を行う
④「雇用保険被保険者資格取得届」を公共職業安定所へ
……雇用保険の適用対象となる労働者を雇った日の翌月10日までに
※①が完了したのち、③・④を行う
下記の図(厚生労働省ホームページ)を参考にしてください。
https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/daijin/hoken/980916_2.htm
なお、従業員が「5人未満」の個人事業の場合、社会保険への加入義務が発生しません。加入義務に関しては、下記をご確認ください。
社会保険が必要になるケース
・個人事業者から法人に切り替えて事業を始め、雇用が発生する場合
(法人の場合は一律で健康保険、厚生年金保険への加入義務が発生します。従業員個人が扶養などに入っている場合は、この限りでありません)
・個人事業であっても、従業員が常時5人以上いる場合
事業において雇用が発生した場合には、雇用した人に提示する「労働条件通知書」と、税務署に提出する「給与支払事務所等の開設届出書」があります。小規模で事業を開始しており、これから初めて少人数の人を雇う、といった場合には、この2つについてしっかり確認しておきましょう。規模が大きくなり5人以上を雇用した場合には、「保険関係成立届」など社会保険関連の手続きが発生します。自分で手続きを行うのが難しい場合には、税理士や社労士に相談してみてください。
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通信会社でシステムエンジニアとして働くが、結婚を機に退職。その後約10年間、中小企業の経理職や税理士事務所で働き、2023年に個人税理士事務所を立ち上げる。税務業務を中心にお客様のサポートをしながら、2 人の娘を育てるママ税理士。