昨今は地球全体の気温変動の影響により、大きな災害が増えてきました。被災者に対し、国や自治体はさまざまな救済措置を用意しており、条件次第で所得税の控除や減免・免除を受けることが可能です。ただし、多くは「申請しなければ救済措置を受けられない」というものであり、注意が必要です。万一に備え、これらの制度を学んでおきましょう。
今回は、災害を受けたときに受けられる「雑損控除」と、「災害減免法」に基づく救済措置についてご説明します。
自然災害(震災、風水害、冷害、雪害、落雷、害虫ほか)、火災、盗難、横領などで、生活に必要なものの損失があった場合、下記の計算による金額が所得から控除される制度を「雑損控除」と呼びます。あくまでも生活に必要なものを損失した場合であり、娯楽品や別荘、事業に関わる資産などは除外されるので注意してください。
計算方法
下記の「いずれか多い方」の金額を所得金額から差し引くことができます。
A. (損害金額+災害等関連支出の金額-保険金などの額)-(総所得金額等)×10%
B. (災害関連支出の金額-保険金等の額)-5万円
「災害関連支出」とは、災害や被害を受け、建物や家財の取り壊し、除去、原状回復などに費やした費用のことをいいます。
対象
下記のすべての条件に当てはまる人・物が対象となります。
A.対象者
資産の所有者が次のいずれかであること。
・納税者
・納税者と生計を一にする配偶者やその他の親族で、その年の総所得金額などが48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)である者
B.対象物
棚卸資産、事業用固定資産(など)、生活に通常必要でない資産、これらのいずれにも該当しない資産であること。
手続き
雑損控除を受けるには、確定申告書に雑損控除に係る事項を記載し、災害関連支出の金額に係る領収証の添付等をする必要があります。雑損控除額の計算の基になる損失額は、原則として災害等発生直前の資産の時価となりますが、被害状況等により時価の算定が困難な場合は「合理的な計算方法」によって求めることが可能です。合理的な計算方法については下記を参照してください。
国税庁ホームページ「Ⅰ‐2 雑損控除の適用における「損失額の合理的な計算方法」」
また、損害が大きく、1年で所得控除しきれない場合には、翌年以降3年間(特定非常災害によって生じた雑損失については、5年)を限度に控除額を繰り越すことができます。これは次にご説明する「災害減免法」とは異なる点です。また、所得制限がない、所得税だけでなく住民税にも適用される、「盗難」や「横領」も対象となるといった点も、雑損控除の特徴となります。
【確定申告書の記入】
「所得から差し引かれる金額」の㉒に記入します。
災害で住宅や家財に受けた損害金額から、保険金などで補填された金額を除いた金額が「時価の2分の1以上」である場合、かつ、災害にあった年の所得金額が1,000万円未満の場合に受けることができる所得税の軽減免除です。上記で説明した雑損控除と併用することはできず、どちらか有利な制度を選ぶことになります。雑損控除とは異なり、「盗難」や「横領」は対象外です。手続きのために確定申告を行う必要があります。
【災害減免法により軽減または免除される所得税の額】
参考:国税庁ホームページ「No.1902 災害減免法による所得税の軽減免除」
なお、災害減免法を選択しても、自治体に申請することで住民税の減免を受けられたり、その自治体独自の減免制度で救済措置を受けられたりする場合があります。自治体に問い合わせてみてください。
【確定申告書の記入】
「税金の計算」の㊲に記入します。
雑損控除と災害減免法、どちらが有利になるかは、そのひとの所得や被害状況などによって異なります。下記の項目で確認の上、金額を算出して選択する必要があります。
雑損控除 | 災害減免法 | |
---|---|---|
原因 | 自然災害や火災、害虫被害など 盗難や横領も含む |
自然災害や火災、害虫被害など 盗難や横領は含まない |
所得制限 | なし | 1,000万円以下 |
対象物の条件 | 生活するために必要な資産 住宅、家財、車両などを含む |
住宅・家財(ただし、2分の1以上の損失) |
適用される税金 | 所得税・住民税 | 所得税 (場合によっては住民税も) |
繰り越し | 3年可能(特定非常災害は5年) | 不可 |
なお、詳細につきましては下記をご確認ください。
国税庁ホームページ
リーフレット「災害により被害を受けられた方へ(所得税及び復興特別所得関係)」
書類の準備など、申請のための対応が難しい場合には、税務署に相談するようにしましょう。必要な書類なども指示されます。住宅や家財に関する書類や、修繕費などの領収書、保険に関する書類などは、必ず保管しておくようにしてください。
災害時は生活の立て直しが最優先であり、なかなか税金のことなどは考えにくいかもしれません。しかし、金銭的な負担を少しでも減らすことは非常に大切です。備えのひとつとして、災害時の救済策を把握しておきましょう。また、大きな災害が起きると救済のために新たな法律が制定されることがほとんどです。こまめな情報収集を行い、税務署や自治体などへの問い合わせを忘れないようにしましょう。
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通信会社でシステムエンジニアとして働くが、結婚を機に退職。その後約10年間、中小企業の経理職や税理士事務所で働き、2023年に個人税理士事務所を立ち上げる。税務業務を中心にお客様のサポートをしながら、2 人の娘を育てるママ税理士。